では赤外分光の原理について、一番基本的な中赤外域における吸収から考えてみましょう。
中赤外光をある物質に照射すると、中赤外光のいくらかはその物質によって吸収されます。吸収される中赤外光の波長と吸収される程度(吸光度または透過率)は物質によって決まります。したがって中赤外吸収スペクトルを測定すると物質に固有のスペクトルが得られます。
ところで、振動数νの光が分子に吸収されると分子のエネルギーは E=hν(hはプランクの定数)だけ高くなります。そして中赤外光の場合、そのエネルギーは丁度分子の振動エネルギーレベルに相当します。すなわち、図2に示すように振動の基底状態にあった分子は、中赤外光を吸収して振動の第一励起状態に遷移することができます。ただし、ここでE=hνを満足する光を照射すると常に中赤外吸収が起こるというわけではなく、選択律によって許される遷移(許容遷移)と許されない遷移(禁制遷移)とがあることに注意しなければなりません。
中赤外域には重要な二つの選択律があります。
その一つは振動量子数vが±1だけ変化する遷移のみ許容されるというものです。この遷移は振動の基本音に相当するものです。倍音に相当する±2、±3・・・の遷移は禁制遷移とよばれ本来は許容されません。
中赤外域におけるもう一つの重要な選択律は「ある分子振動によって、分子全体の電気双極子モーメントが変化する場合に限り、中赤外光が吸収される」というもので、このふたつの制約から物質に固有の中赤外スペクトルが決定されます。
図2 分子のエネルギーの準位と吸収バンドの関係
次に近赤外分光について考えましょう。
近赤外分光法は本来、禁制遷移である倍音、結合音に基づく分光法ということができます。ではなぜ本来、禁制である倍音、結合音がスペクトル上に観測されるのかというと、それは分子の振動が完全な調和振動(フックの法則に従う振動)ではなく、少なからず非調和性があるからです。とは言え、倍音、結合音の発生確立は低く、吸収は中赤外に比べ非常に弱いものです。従って、近赤外分光法は非常に弱いバンドを扱う分光法ということになります。この一見短所に見えることがらが、後に述べるように近赤外分光法の非常な利点につながっているのです。
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